理事長所信
第65代理事長
宮川 勝行
【はじめに】
私が公益社団法人小田原青年会議所(以下、小田原青年会議所)に入会した2007年まで過去を振り返ると、世界的な経済危機であるリーマン・ショック、甚大な被害を残した東日本大震災、近年も度重なって起こる自然災害等、多くの危機を我々は経験して参りました。さらに時代をさかのぼっても、戦争や疫病等人類の歴史は危機の連続でした。しかしその度に、人類は困難を成長の糧とし、躍進をして参りました。世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス感染症も、人類にとって危機ではありますが、社会を変える大きなチャンスであるとも言えます。コロナ禍において、リモートワーク、ワーケーション等新しい働き方や暮らし方が注目されている中、都心にアクセスしやすい交通の利便性や豊かな自然環境等の魅力を持つこの地域への移住者が増えていることも地域活性にとって追い風とも言えます。 どうにもならない危機が起こっても、見方を変えれば、明るい兆しにつながるきっかけにも なり得るのです。今まで常識とされていたことを問い直し、どんな社会にしたいのかをとこ とん追及し、より良い社会にしていくために、社会に一石を投じること。これが青年会議所の役割であります。そして、青年会議所がこの役割を果たし続けるためには、会員一人ひとりが、社会について学び続ける必要があります。その学びの中で課題を設定し、理想とする姿である目的を定め、目的達成につながる手法を選び実行する。実行すれば結果が生まれ、 結果に対する検証を行い、次の事業に活かしていく。この一連の過程を通して、会員一人ひとりが成長していくのです。JCIMissionにも、「より良い変化をもたらす力を 青年に与えるために発展・成長の機会を提供すること」とあるように、社会にインパクトを与えられる青年になるために、成長の機会を提供し続けることが青年会議所の使命であります。【地域】
私たち小田原青年会議所は、「世界を感動させる観光文化都市をめざして」という地域ビ ジョンを掲げ、小田原市・箱根町・真鶴町・湯河原町の1市3町を活動エリアにしています。このエリアは、海と山に囲まれ過ごしやすい気候であり、その豊富な自然を背景に豊かな文化が生まれ、多くの歴史の残る地域であります。そして、この恵まれた地域を目指して国内外から多くの観光客に訪れていただきました。しかし、2020年初頭からの新型コロナウ イルス感染症の影響により、国内からの観光客は激減し、海外からの観光客は見る影もなく、地域経済に暗雲が立ち込めております。この厳しい状況の中、観光に関わる事業者は、コロナ禍が明ける未来を信じ、新しい生活様式に対応した販売手法の模索や新しい需要を取り 込める商品・サービス開発に向けて日々努力をされております。コロナ禍は、近いうちに収束するでしょう。しかし、密を避ける等の新しい生活様式が長らく続いたことで、人々のマインドはコロナ禍前には戻らないと言われております。私たちは、このマインドの変化を前提に、この地域にある豊富な資源をさらに磨き上げ、新しい魅力を創出していく必要があるのです。そして、地域の新しい魅力を創出するためには、我々を含む地域住民がこの地域を良く知り、愛着を抱いているかどうかが重要なポイントであります。確かに、外からいらっしゃる人たちは、1市3町にある風光明媚な自然や歴史建造物を見て感動することもあるでしょう。しかし、観光に携わる人たちを始め地域住民と会話をしたり、彼ら彼女らがつくるモノやサービスに触れたりすることでより深い感動が得られるのではないでしょうか。感動の起点となるのは地域住民であるのです。自ら住み暮らす地域に愛着を持ち、自分たちのまちは自分たちでつくる意志を持った地域住民が一人でも多くなることで、地域ビジョンの実現に近づきます。【国際】
現在、小田原市は、内閣府よりSDGs未来都市に選定され、<人と人とのつながりによる「いのちを守り育てる地域自給圏」の創造>を掲げ、SDGsの推進に向けて行政と地域団体とが一体となって取り組んでいます。地域団体の一つである小田原青年会議所も、SDGsを活用し地域住民・行政・企業との懸け橋となり、持続的に発展する地域の実現に向けて活動しております。小田原生まれの偉人である二宮尊徳は、この持続的発展を続ける地域づくりに向けて多くのヒントを残されました。二宮尊徳は、江戸後期に六百余りの困窮した農村を復興に導いた特筆すべきリーダーであります。二宮尊徳の教えである「報徳」とは、人や物それぞれに備わる長所(徳)を受け、それを相手や社会にお返しする(報)ことであります。報徳思想は、経済的にも精神的にも豊かな好循環が生まれる思想であり、持続可能な社会づくりを目指すSDGsの考え方に合致しております。小田原青年会議所は、2010年度に公益社団法人日本青年会議所全国会員大会小田原・箱根大会を主管し、報徳思想を日本全国へ発信いたしました。次なるステップは、混迷を深める世界の人々に報徳思想という一筋の光を照らすことではないでしょうか。世界には多様な課題が山積しており、解決には1カ国の力のみならず、複数の国との協力が必要不可欠です。我々は国家間の懸け橋となるべく民間外交の担い手としても活動を行っております。小田原青年会議所が35年以上続けてきたホノルル日系人青年商工会議所(HJJCC)との国際文化交流は、その活動の一つであります。また、日本青年会議所主催による将来の国や地域のリーダーである会頭候補者が集い、リーダー研修を行う「国際アカデミー」があります。小田原青年会議所は、本年度「国際アカデミー」を開催いたします。われわれの活動エリアで「国際アカデミー」を開催することを通じ、世界の人々に報徳思想を広め、国内外のファンを増やすきっかけにして参ります。また、「国際アカデミー」の開催に向けて会員一人ひとりが一丸となって事業に向き合い、この地域にお越しになる皆様にこの地域にしかできないおもてなしをすることで、開催後の国際交流のきっかけをつくって参ります。そして、観光庁が推進しているビジネスイベントの総称であるМICE<会議(Meeting)、研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)>の誘致推進にもつながり、地域ビジョンの実現が近づくのです。【教育】
日本において、近年の少子化、核家族化、都市化、情報化等の社会情勢の変化により、人間関係、地域における地縁的なつながりが弱まり地域の教育力が低下していると言われています。この地域においても益々この状況が進んでおり、地域の教育力がさらに低下していくことが予想されます。そもそも、子どもの教育の目的は、精神的な自律及び経済的な自立に向けた人格形成であります。この大きな目的を達成するために家庭教育、学校教育が大きな役割を担っておりますが、この2つだけでは限界があり、豊かな人格形成のために地域での社会教育が必要です。地域での社会教育とは、地域の多様な人間関係の中で、自然環境、固有の文化を通じて、社会規範や道徳心、社会的なマナー等、社会性の基本を学ぶことであり、親から子へ引き継がれてきた家庭教育を地域社会で支えていく重要な役割を担っております。では、青年会議所ができる社会教育とは何なのか。それは、家庭でも学校でも提供できない教育機会の提供であります。我々は、多様な職業からなる青年団体であります。多様で柔軟な発想を基に、この組織が持つ広いネットワークを生かし、地域での社会教育に関わります。そして、変化の激しい社会の中でたくましく生きる力を養い、次代の地域を担う人財を増やして参ります。【人財】
青年会議所の特徴の一つに、入会時の目的と卒業時の目的が変わることと言われております。入会時は、人脈を広げるため自己成長のためという動機で入会した者が、卒業時には、他人のため地域のためという様に、考え方や視点が変わってくるのです。これは、青年会議所の事業構築のプロセスの中で、自分以外の他者が今よりもどうなったら良くなるのかを徹底的に議論する機会が多いことからもたらされる効果であると思います。たらいに入った水を手で自分の方にかくと、水はたらいを伝って外側に逃げていってしまう。逆に、水を前に押し出すようにかくと 同じようにたらいを伝って自分の方に返ってくる。「たらいの法則」と呼ばれる人間社会の真理であります。この「たらいの法則」を、実体験をもって体得できる組織が青年会議所であるのです。そして、このような変化が起こった会員は、卒業後、本業を含め他の地域活動等を通して、地域にお役に立てる人財となり、豊かで幸せな人生にもつながるのです。このような変化を一人でも多くの人達に体感してもらいたい。この思いが青年会議所の会員拡大の本質であります。会員が一人でも多く増えることにより、 我々の行う運動は推進力を増し、我々の思いが地域に深く伝わるのです。一方、新しく組織に所属した会員にとって、小田原青年会議所の活動内容が分からず、他の会員との人間関係を築けていない状況の中、不安を感じるのは当然であります。この不安を少しでも和らげるために、会員間の横のつながりを深めていくとともに、青年会議所活動を通じ自らの可能性が広がることを感じていただきます。また、現在、青年会議所の平均在籍年数は、3年強と言われております。この短い期間の中で青年会議所を知り、その魅力を感じるためには、小田原青年会議所の活動だけでは不十分であります。小田原青年会議所は、日本青年会議所に所属し、日本青年会議所が行う京都会議、サマーコンファレンス、全国大会等の事業に参加できるだけでなく、日本青年会議所の中にある関東地区協議会、神奈川ブロック協議会が提供する事業にも参加できます。また、日本青年会議所は、国際青年会議所の一員でもあることから、我々は「アジア太平洋エリア会議(ASPAC)」や「世界会議」等の機会を通じて世界の会員ともつながることもできます。我々はこれら多くの機会に参加という形で関わることができることのみならず、出向 という形で事業構築に深く関わることで全国各地の仲間ができ、予想以上の成長の機会を得ることができます。【組織】
我々の組織は、青年会議所という名の通り、会議を重ねる団体です。そして、我々は、仕事やプライベート等とのバランスを取りながら日々の活動をしています。一堂に会する限 られた会議時間の中で、事業や組織運営について的確な議論を交わし、組織としての正しい方向性を決めるためには、共通のルールが必要となります。我々は、このような効率的な会議運営方法や各場面に応じたドレスコード等を定めたJCプロトコルというルールを受け 継いでおります。共通のルールであるJCプロトコルを早い段階から習得することで、充実したJCライフを送ることにつながります。また、新型コロナウイルス感染症の影響により、会議はリモート会議となり、会食は制限されております。確かに、この変化により組織運営が効率化された一面がありますが、人と人とが意思疎通する上で必要な非言語的コミュニ ケーションの多くの部分が失われ、JCが重要としてきた濃い人間関係をつくりづらい面も出てきております。効率性も大事ですが、数字では割り切れない非合理さ、人と人との触れ合い、アナログ的な部分をどう補っていくのか模索して参ります。そして、小田原青年会議所が様々な事業を計画しても、広報されずに誰も知らない状況であれば、事業を開催する意義を失ってしまいます。情報過多社会の中で、ホームページやS NSといった情報を発信するツールは世の中に数多く存在します。大切なことは、どのツールを使うのではなく、必要としている人のところに必要なときに情報が届くことです。情報の受け手の視点を想像しながら効果的に情報を発信していくことで、我々の運動の成果を最大限に高めていきます。また、地域から信用される公益法人として、事業資金が適切かつ効果的に使われるかどうかの財政面のチェックを行うとともに、定款・諸規定及び社会規範に適合しているかどうかのコンプライアンス面のチェックを行い、健全な組織運営を目指して参ります。【結びに】
人は何歳になっても成長できます。しかし、今できることをやっているだけでは成長はできません。自分と同じ意見を持った者同士がかたまっていても成長できません。自分はこの程度の人だと自分に限界をつくってしまっても成長できません。できないことをやるからこそ成長できます。意見の違う人を否定するのではなく、理解しようと努力し、意見を交わすから成長できます。しかし、今までやったことのないことに取り組むと、必ず問題にぶつかります。そんな時に、できない理由を探し行動を止めてしまうことは誰でもできます。そうではなく、どうすれば問題を解決できるかを考えて考え抜きましょう。考え方の違う者同士で納得がいくまで話し合いましょう。一度解決できると、それは自分にとっては「できること」になります。それが、その取り組みを面白くするきっかけとなるのです。それが、自分を成長させる糧となるのです。私は、小田原青年会議所に入会してから約15年間、自分にはできそうにないと思っていた役職も多く経験させていただき、その過程で多くの人たちと出会い刺激を受け、限界だと思っていた自分の殻を何枚もはがしていただきました。それと同時に、自分の未熟さや欠点も自覚することができました。そして、無理に自分に無いものを求めるよりも、欠点を持った自分だからこそ何ができるかと考えていくことで、逆に自分の進むべき道や役割が見えてくることが分かりました。完璧な人間は存在せず、周りの人たちと協力し、欠点を補いながら進んでいくことでお互いが成長できると信じています。
共により良い地域を創り、共に成長し、共により良い豊かな人生を歩みましょう。
私は、小田原青年会議所の先輩諸兄姉が築いてこられた功績に感謝し、受け継がれてきた精神を受け取る者として、責任と自覚を持ち、理事長職をお預かりすることをお誓い申し上げ、公益社団法人小田原青年会議所2022年度第65代理事長としての所信とさせていただきます。