理事長所信
第63代理事長
一寸木 慎也
【はじめに】
厳しい寒さの後に春が訪れるように新しい時代の幕が開けました。私たちは、昭和から
平成そして令和と大きな時代の変化を肌で感じ、驚異的なスピードで進化したテクノロジ
ーは私たちの生活を豊かにし、グローバル化による情報通信技術の発展、インターネット
の普及、交通手段の発達は移動の容易化を可能にし、経済は国際的な解放により国内市
場、海外市場の境目が無くなり私たちの暮らしに多大なる影響を与えました。しかし逆説
的に考えるとテクノロジーが発展すればするほど人と人の関係性が希薄化し未来が不安に
なっていくというパラドックスが生まれ、グローバル化の進展は固有の文化を破壊される
という弊害が生じ、健全ではない経済成長は環境問題を引き起こし、今も未だ多くの社会
的ジレンマの狭間の中にいる。また人口減少・少子高齢化・気候変動などの具体的な対応
策も儘ならず複合的な社会問題に直面し、物質的豊かさだけで言えば明らかに豊かな国で
あるにも関わらず、拭いきれない不安の中で生活をしているのです。社会問題を考えると
途方もないことだらけですが、私たちが住むこの地域をより良くしたい。大切な人たちが
暮らすまちだからこそ未来への不安を払拭し、「明るい豊かな社会」を築く必要がありま
す。階段の先は見えなくてもその第一歩を踏み出すことが重要です。未来とは誰も経験し
たことがない未知であり、誰もが如何ようにもできるものだと思います。ただ一つ確信し
ていることは、何もしなければ、現状維持すらできないということです。これから先どれ
だけ困難な時代が訪れようとも「世界はきっと素晴らしい」そう未来を託す子供たちに
堂々と胸を張って言えるように私たち青年は、夢を描き、実現するための具体的な行動が
とても重要なことなのだと思います。私たちがお預かりしているこの時間は、先人たちが
命を懸けて築いてくださったものであり、そして未だ見ぬ未来へと襷を繋げていく必要が
あるからです。夢を描くことができれば実現する。誰もが夢を描ける地域を目指し、想像
で終わることなく、実現可能にするべく、様々な障壁を乗り越えるアイデアと具体策、そ
して真の行動力を持って取り組んでいく一年として参ります。
【SDGsを活かして目標を達成しよう】
私たちの住む世界が本当の意味で幸せに満ち溢れたら、悲しみがなくなり、貧困、飢
餓、差別、あらゆるネガティブな問題が無くなればどれだけ素晴らしいか、誰もが一度は
想像したことがあると思います。しかし個人のキャパシティには限界があり、想像は妄想
に変わり創造することができず終わってしまうことがあります。しかし世界は、大きく変
わろうとしています。2015年国連によって採択された、世界が抱える問題を解決し、
持続可能な社会をつくるために「SDGs(エスディージーズ:SUSTAINABLE
DEVELOPMENT GOALS―持続可能な開発目標)」が世界各国で合意されまし
た。さらに、国家間だけに収まらず、共通価値の創造に向けた多様なステークホルダー間
でも新たな連携や協力の構築を図ろうとしているのです。国境を越え、人種を越え、性別
を越え、一つひとつの目標にゴールを定めるということがどれだけ大きなインパクトにな
るのか計り知れません。私たちは目的地もなく地図を持たずただ漠然と走るのではなく、
SDGsという羅針盤を活用することができます。世界に目を向け広い視野で物事を考え
ることにより、きっと目の前の問題が少しばかり小さく見えるかもしれません。勿論、多
くの出来事は一朝一夕にはいきません。世界を変えることは難しくても自分を変える事が
できれば、目の前にいる大切な人をきっと幸せにすることができます。志を持って一隅を
照らすことができれば、きっとこのまちを明るく照らす光となることでしょう。目の前の
現実を変える事ができるのは、国家や地域、偉い人、頭が良い人、富がある人ではありま
せん。それは、私たち自分自身なのです。世界、地域、個人、問題の大小に関わらずSD
Gsを通じて持続可能な社会を考えて行きたいと思います。
【できないからやってみる。誰もが夢を描ける地域に】
夢を語れば、蔑視され、いつの日か夢を語ることをやめ、夢という言葉を儚いものと思
うようになり、子どもに夢を持てと自信を持って言えない自分がいました。しかし私は青
年会議所活動を通じて多くのことを学びました。目の前に道がないのであれば作ればい
い。目の前に大きな壁が立ちはだかるのであればそれを乗り越えればいい。制約条件があ
れば解除すればいい。できないことを端から否定するのではなく、何とかやってみる。達
成できた時はそれが自信となり大きな力となるのです。日本の学校教育はレベルが高く世
界レベルで考えてもとても素晴らしいものだと考えられます。しかし誤解を恐れず申し上
げるのであれば夢の叶え方や目標をどうやって達成するかという教育に関しては個人の力
量や、家庭環境に依存していると言えるのではないでしょうか。また、日本には、本学
(人間学)と末学(手段・手法)という言葉があるように末学をいくら習得しても、本学
を知らなければ言葉の通り本末転倒です。学校教育に依存し、地域や家庭での教育を考え
ず全うな人間を育てるなんて烏滸がましいことなのです。ほんの少しのきっかけでもい
い、一瞬でもいい、未来を担う子どもたちが自信と希望を持ち、世襲格差社会による優待
制度、固定化される職業、現代社会が作り上げた幻想に怯えることなく夢に向かって羽ば
たける強い心を養える教育事業を展開していきたいと思います。誰もが夢を描き、自信と
勇気と優しさに溢れた子どもたちがこの地域の未来を創って行く、それが実現した時、紛
れもなく世界をポジティブ・チェンジする力が生まれます。
【私たちは奇跡の時代を生きている】
1945年(昭和20)に第二次世界大戦(大東亜戦争)が終結し2020年は戦後7
5年を迎えます。75年間、戦争を行わなかった国は、世界196ヶ国(日本政府承認国
家数日本を含む)の中でたった数ヶ国しかありません。考え方によっては、今こうしてこ
の瞬間を迎えていることは奇跡なのかもしれません。子どもは「何故戦争が起きるの?」
と純粋に質問をしてきます。憎しみの連鎖、利権、ビジネス、宗教、神話では神様も戦争
をします。様々なファクターがあり私たち大人は適切な答えを伝えることができません。
恒久的な世界平和とは、どうしたら実現できるのでしょうか。考えれば考えるほど遠く、
儚いものに感じてしまいます。今、こうしている間にも遥か遠い国では、残酷な日々が続
き、戦争だけでなく貧困や飢餓をという問題もあります。もしその国に友達がいたら、家
族がいたらと思うと対岸の火事ではなくなり、自分のことのように胸が苦しくなると思い
ます。同じ時代に生まれながらも生まれた国によってどうしてこんなにも運命が変わるの
でしょうか。奇跡の時代を生きている私たちは何が出来るのだろうか。対岸に燃える炎に
対し偽と真を高い次元で見定め、そして世界に目を向けることで自分自身の置かれる立場
を考え、命を賭して大切なものを守り抜いた先人たちがどんな思いで未来を生きる者たち
の幸せを願ったのかあらためて学ぶ必要があるのでないでしょうか。「人生に希望を持て
ない」という、世の中に吹く向かい風に対し私たちの運動が逆風を推進する帆船のように
力強いものになるよう努めて参ります。
【パートナーシップで地域の強みを活かす】
小田原と言えば歴史のある小田原城、蒲鉾や梅、週末は人でにぎわう漁港がある。箱根
と言えば入込観光客数が2千万人を超える日本でも指折りの観光地です。真鶴といえばノ
スタルジックな雰囲気をもつ情景や美しく綺麗な岩海岸。湯河原といえば日本最古の歌
集、万葉集にもうたわれている温泉という資源があります。日本中どこをさがしても小田
原・箱根・真鶴・湯河原のようにポテンシャルが高い地域は唯一無二だと言えるでしょ
う。新しい観光資源、経営資源を生み出さずとも磨きをかければいくらでもこの地域にと
って更なる活力を生み出すことができるはずです。日本の人口はいままでずっと増加して
いました。特に明治維新を境に人口はとてつもない勢いで増加し、2004年に入る頃か
ら急激に減少しています。私たちは人口のピークをむかえ、誰も経験したことがない急激
な斜面を下っています。経済が成長したのは人口が増え続けていたわけであり今後、経済
がプラス成長をすることはまともに考えると難しいことなのかもしれない。GDPで考え
ると日本とフランスは同列にいます。しかし単位労働時間あたりのGDPはフランスの半
分です。現状では同じ労働時間を持ってしてもフランスの半分のものしか生み出せない。
しかし考え方次第ではチャンスであり、つまり日本は2倍の経済成長ができるかもしれな
いという可能性を秘めているのです。夢を描き、知恵と工夫で問題を解決し、このまちの
地域資源を最大限に活かし、多種多様な職業の会員が在籍するJCだからこそ考えられる
アイデアと様々なステークホルダー間とのパートナーシップを最大限に活用すれば、きっ
と人口減少にも耐えられる経済問題解決の糸口を見つけられるはずです。良いものをより
良いものにし、私たちの運動が地域ブランドとなるよう夢と活気に満ち溢れたまちづくり
を目指します。
【愛する地域に関心を持つ】
目の前のあなたをどれだけ豊かにしても国がなければ、地域がなければ意味がありませ
ん。反対に国や地域をどれだけ良くしようと努力しても目の前のあなたが幸せでなければ
これも意味がありません。私たちと国は相互扶助によってなりたちます。無関心で、何も
行動しなくても時は過ぎます。「誰かがやってくれるから」という思いを誰もが少なから
ず持っているのではないでしょうか。面倒をこうむるのは嫌なことでしょう。大事なもの
だけを行い、大切にしたい人だけを守りたいでしょう。しかしこの地域がなければ大事な
ものも大切な人も幸せになることはないのです。2019年4月には統一地方選挙があり
投票率は軒並み50%を下回る結果となりました。日本で初めて選挙が行われたのは18
90年(明治23年)衆議院議員選挙でした。当時は選挙で投票できる人は直接国税を納
めている満25歳以上の男性、全人口の1%程と言われています。1925年(大正14
年)に初めて25歳以上の男性すべてが選挙権を持てる時代となりました。その時は女性
には選挙権がなく20年後の1945年(昭和20年)に女性が選挙権を持つことができ
ました。当時の国民は何を感じていたのでしょうか。私たちは財産や、性別による差別が
なく私たちの代表を選び、政治に参画する権利を持っています。政治なんて誰がやっても
変わらない。そう卑下する前に私たちは行動するべきなのです。「あなたの声や力がこの
まちにはどうしても必要なのです」無関心が関心に変わった時、その思いは愛という言葉
に変わります。予算が無くても、税金に頼らなくてもまちのためにできることはいくらで
もあり、資金が必要であればクラウドファンディングなど現代社会には様々な手段があり
ます。共感を得ると同時に知恵と工夫で地域に関心を持つ市民を増やし、政策本位の政治
選択が実現できるよう、本当の意味で投票権の重要さを理解し、義務を強調するわけでも
なく、権利を侵害するわけでもなく地域全体で市政に参加できるよう考案する必要がある
と考えます。
【国際青年会議所(JCI)世界会議】
2020年は東京オリンピック・パラリンピックが開催される記念すべき年であると同
時に国際青年会議所(JCI)世界会議が横浜の地で開催されます。世界各国にある国際
青年会議所のメンバーが一堂に会するに国際会議が開催されるのです。勿論、小田原JC
は地域に根ざした組織でありますが、国際的組織という事を改めて考えることができる絶
好の機会であり、JCの会員であることで、世界中のメンバーと繋がることができます。
国際青年会議所のスケールメリットを最大限に活かすことができれば、私たちが掲げる
「世界を感動させる観光文化都市をめざして」という地域ビジョンを達成できる組織に成
長することができるはずです。国を知るためには国際を知り、国際を知る為には国を知る
必要があります。国家と国際は相補的な関係であり両輪なのです。しかし多くの日本人が
言語の壁と言う障壁が取り除けない状況は軽視できません。昔から出会いによって人生が
変わると言われています。世界中の人と言語の壁を越えてディスカッションができれば、
いままで想像できないようなアイデアが生まれます。また、知識だけではなく言語の壁を
乗り越えられる知恵や工夫、経験を深めることは重要です。国単位ではなく地球単位とい
う感覚を持てるよう国際的組織に進化する必要があります。国際青年会議所(JCI)世
界会議という機会を通じて世界中の人々が感動して頂ける、もう一度訪れたい、もう一度
お会いしたいと心から思って頂けるようなまちを創造出来るように様々なアイデアを具現
化して参ります。
【共に夢を描く仲間を一人でも多く増やそう。新しい会員拡大の仕組みの構築】
JCメンバーが一人でも増えればどれだけ大きな夢を描けるだろうか。一人よりも二
人、二人よりも三人と同じ志をもった同志が多ければ多い程社会にインパクトを起こす大
きなエネルギーに変換されます。極端な話、同じ志を持った者が百万人いたとしたら社会
にどれだけインパクトを与えられるか計り知れない、しかし光り輝くものが見つからなけ
れば人は魅力を感じない。私が入会した時、先輩諸氏をはじめ、多くのJCのメンバーに
憧れを頂き、眩しすぎて近づけない程、魅力溢れる人ばかりでありました。私たちも個々
に人を魅了し憧れられる存在になる必要があります。今までの拡大の手法も間違っていな
い。しかし時代の変化と共に社会的価値観は変化していきます。本当の信頼とは責任の向
こう側にあり、同じ汗を流し、共に涙を流した仲間だからこそ信頼が生まれます。それ
は、地域の人々との共感で大きな夢を描くことにも当てはまります。誰かが描いた夢や希
望に共感してもらうこと、そこに新しい会員拡大のヒントがあるのだと信じています。未
来に奇跡を起こす会員拡大。地域の未来を明るく照らすのは「志を持った青年」であり、
まちはひとでしか創ることはできません。人々を魅了する事業を行い、新しい会員拡大の
仕組みの構築に挑戦して参ります。
【地域の未来を描ける組織へ】
良いデザインや芸術は言葉がなくとも人を魅了し、綺麗なものや格好良いものは、誰も
何も言わず大事にされます。壮麗な景色を汚したくないと思うのは、人の真理なのかもし
れません。道徳心と倫理観を大切にし、優れたアイデアを形にし、社会にインパクトを与
えることができたとしたら、そこに言葉がなくとも人々を魅了し、素晴らしい組織になる
ことでしょう。私たち一人ひとりの活動が地域のデザインを構成するための線や色、形や
テクスチャとなり、私たちの運動が統一性、多様性、相反するものに調和を持たすことが
できたとすれば、素晴らしい地域デザインを描けます。青年会議所では、多くの人に出会
うことができます。出会いが人の運命を変えると言っても過言ではありません。また、青
年会議所が主催する事業を通じ個々の魅力を最大限に引き出すための研修や交流を活かす
ことで素晴らしいデザインを描くことができます。様々な事情の中、活動し上手くいかな
いこともあるかもしれない、時には孤独を感じることもあるかもしれません。一度きりの
人生だからこそ何を選択し、何を大事にするかその決断に対する真価を問われます。青年
会議所活動はどんなに素晴らしい本を読んでも決して得ることのできない濁りのない真水
の情報や経験を得ることができます。また他の組織には決して真似できない唯一無二の強
さがあります。それはリーダーの育成であります。過酷な環境でも決して屈しない強さを
身につけることができます。青年会議所でリーダーシップを身につけ、その学びをいつか
それぞれの地域に帰った時に発揮することでより良い地域となるのです。人の痛みを想像
できるから何が必要で何が不足しているのか考えることが出来るのです。これまで受け継
がれてこられた組織としての在り方を守り、変えるべきもの、変えてないけないものを、
英知を持って見定め、私たちの活動を信じ、素晴らしい未来を描けるよう、恐れることな
く青年会議所活動に邁進し未来を切り開いて参ります。
【むすびに】
「新日本の再建は我々青年の仕事である」という気概と覚悟のもと、1951年戦後間
もない頃に青年たちに情熱と魂が宿りました。私たちが所属する公益社団法人小田原青年
会議所はその先輩諸氏の志という遺伝子が脈々と受け継がれています。現在の私たちが想
像できるはずもない過酷な状況下でも前を向くことを諦めない強い遺伝子です。受け継が
れた魂は私たちに強い力と可能性を残してくれました。夢は理想に変わり、理想は計画と
なり、計画は行動となり、行動が現実を変える。故に夢を描くことは大きな力となりま
す。また、言葉には力があります。本当に実現したいと思うのであれば、それがたとえ儚
い夢だとしても言葉に出してみようではありませんか。私たち青年は、他人を評価した
り、物事を批判する評論者ではなく夢を描き実現する能動的に行動する実践者となるので
す。本当に大切なものとは何か。その答えは、相対的であり、人により異なるものであり
ます。大切なものは目に見えないとも言われている。分からないからこそ、勁烈にその答
えが欲しくなる時もあります。合理的、明快でロジカルな思考はとても重要です。しかし
時には汗をかき野暮ったい姿を晒してでも我武者羅になることで今まで見えなかったこと
も見えてくるのかもしれません。いずれ野辺の石ころ同様、骨となって一生を終えるので
あれば思いっきりやってみようではありませんか。世のために尽くした一生ほど、美しい
ものはありません。英知、勇気、情熱そして常に晴れ上がった空のように高々とした心を
持ち、青年会議所の可能性を信じてこのまちのため、大切な人たちのために何ができるの
かを一心に考え運動していくことをお約束し公益社団法人小田原青年会議所2020年度
理事長所信とさせていただきます。